残業時間の落としどころ in オーストラリア
日本で働いていたとき、残業時間には「落としどころ」が存在していたと思う。
例えば、「この部署では毎日2時間くらいは残業する」というのが先に在りきで、それに合わせて仕事の時間配分をするのだ。
奇妙に聞こえるだろうか?
ひょっとしたら多くの人はこれに同意しないかもしれない。
「何をバカなことを。自分が残業するのは毎日本当に忙しいからだ」と。
実際私も忙しかったが、忙しいとか忙しくないとかに関係なく、残業時間に「落としどころ」は確実に存在した。
例えば会議では、会議を引き延ばそうとする輩が常にいた。
もう検討事項は終わっているのに、どうでもいい些細なことを議題に加えてきたり、世間話を始めたりするのである。
彼らは残業時間の「落としどころ」に帳尻が合うよう時間配分しているから、会議があまりに早く終わってしまってはいけないのだ。
(特にマーケティング関連部署からの参加者にそういう傾向が強かったと思う。)
私はこういうとき、いつもイライラした。
というのも、私は「できるだけ残業しない派」だったから、会議ができるだけ早く終わってくれないと困るのである。
私には会議の後に「本来やるべき仕事」が待っていた。
私の担当は製品開発で、長期的な納期から逆算して、その月、その週、その日のうちに解決すべき課題があった。
私にとって大抵の会議は雑用の類だったのだ。
(一方、マーケティング関連部署にとって、会議こそが「本来やるべき仕事」で、だからそれを長引かせることに心理的抵抗がなかったのかもしれない。)
繰り返すが、私は「できるだけ残業しない派」だった。
ところが、である。
かく言う私でさえ、残業時間の「落としどころ」から逃れられる訳ではなかった。
マルチタスクで脇目もふらず働いたが、定時で帰ることはまずなく、少なくともその部署における「望ましい帰宅時間帯」まではそのペースで仕事した。
そうしないと、「非常識な人」と見なされただろう。
…前置きが長くなってしまった。
さて今回は、オーストラリアにこうした残業時間の「落としどころ」が存在するか? について検証したい。
オーストラリアに残業時間の「落としどころ」は存在するか?
現在私が働いている会社の契約書によると、私の勤務時間は「朝8時半~夕方5時」ということになっている。
加えて「場合によってはそれ以上に及ぶこともある」とただし書きもある。
勤務初日、R&Dのマネジャーによるオリエンテーションがあった。
そこで彼は、「行った仕事の時間の割り振りを毎日Excelの勤務表に記入せよ」と言った。
彼は例として同僚たちのファイルを開いて見せ、私にこう言った。
「皆、定時より小一時間ほど多めに働いているようだ」
私は即座に悟った。
この発言のimplication(含意)は
「契約書に8時半~5時と書いてあっても、実際その通りにして良いわけじゃない。
分かるだろ? この意味」
だということを。
さて働き始めると、マネジャーが言った通りであった。
オーストラリアだからといって皆、定時で帰るわけではない。
残業はするのだ。
そして面白いことに、マネジャーが出張などでいないとき、同僚たちの帰宅時間が早くなることにも気づいた。
つまりこれは、「残業時間は必ずしも仕事量に依存するわけではない」ということを示している。
程度の差こそあれ、オーストラリアの職場にも、残業時間の「落としどころ」は存在するのである。