Austらぼ

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中古物件を内見せずに買う方法 in オーストラリア

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不動産は言うまでもなく高い買い物である。よくよく吟味してから買うべきだ。ところが最近私は、現地で内見することなしに中古物件を買った。(厳密にはライブビデオで見た。)オーストラリアで不動産投資を検討している人にとって、また自宅を購入する人にとっても役に立つかもしれないから、その流れをここに記録しておく。事前に手順を知っていれば気持ちに余裕を持って購入に臨めること間違いなし。

 

現地で内見しないで買うことは正当化できるか?

今回購入したのはブリスベン郊外の中古物件だ。マイニングブームが再来するかもしれないからパースも検討したが、Yield(家賃/物件価格)が低すぎるように感じてブリスベンに落ち着いた。

私はメルボルン在住なので、Inspectionの度にブリスベンに行ったりすることはできない。しかしながらCOVIDのおかげ?でOnline Inspectionを頼みやすい環境が整っていた。

ところで世の中にはOff the planで家を買う人がいる。(新築の着工前や完成前に買うこと。)これは買い手にとってメチャクチャ不利な取引である。実物を見れないし、本当に完成する保証もないからだ。

けれども中古ならライブビデオで見られる。「ちょっとそこもう一回見せて」とか「家の周りを見せて」と注文できるのである。

また、テナント付きで売りに出している物件もかなり存在する。これには安心感がある。少なくともテナントは、その物件のRentに見合う価値を見出しているからそこに住んでいるのである。テナントはその物件や近隣を知り尽くしている。この事実は、買い手が一度や二度の内見で判断するよりも重要かもしれない。

…といろいろ理由をつけて自らの投資行動を正当化したわけである。(でも本当にそう思っている。)

 

中古物件を内見せずに買う手順

1.Home Loan申請

Home Loanを申請し、Pre-approval (Conditional approval) を取る。私は妻のヨガ仲間のMortgage Broker に頼んだ。知り合い以上友人未満の人物で、そういう相手に自分の経済状況を開示するのもどうかと思ったが、親身になってサポートしてくれて結果的に良かった。

 

2.物件探し

Home Loan申請と同時進行で物件を探す。Realestate.com.au より Domain.com.au の方が良い。サイトが工夫されている。二番手のDomainはRelaestateに追いつくために頑張っている。

 

3.EOI

目ぼしいのを見つけたらExpression of Interest (EOI)を提出する。EOIにはオファーの金額や、最初のDepositを幾ら払って、次のDepositを幾ら払います…などと記入するのであるが、この用紙はお気楽に提出してしまって良い。なんならOnline Inspectionする前にいきなり提出しても良い。と言うのも、そうしないと話が進まないからである。特に今のような売り手市場になっている状況で、単に「Online Inspectionをやって下さい」と依頼しても現地の客が優先されてしまう。EOIはこちらの本気度を示すようなもので、出せば相手の喰いつきが変わる。EOIを提出したら買わなければいけないなんてことはなく、単に出しっぱなしでいいのである。

 

4.Seller Agent

現地に見に行けないのは、やはり不利である。が、問い合わせとOnline Inspectionを繰り返しているうちに向うから積極的に物件を紹介してくるSeller Agentが現れた。

 

5.物件決定

紹介してくれた物件二つは満足のいくものだった。テナント付きでRentと諸経費からYieldが算出できるのである。築年数が浅く立地も悪くなかった。

それで二物件同時にEOIを提出したら「二軒とも買うの?」と驚いたSeller Agentが電話をかけてきた。このエピソードから分かるように通常、EOIはそれなりの覚悟をもって提出するようだ。でも法的な拘束力はないからお気楽に出してしまって良いのである。

「両方交渉してみて、買える方を買う」とこちらは説明した。そしてここで妻は、「どっちの物件が良いと思いますか?」と素直すぎる質問をした。彼女はいつも、売り手に対して率直すぎる質問をするのである。

過去記事「正直すぎる不動産屋」

世知辛い世の中で揉まれすぎたせいだろうか――私には絶対にそんな質問はできない。「Agentなんてものは、どうせ自分が売りにくいと感じている方を勧めてくるんだろ」と斜に構えているからである。我々は現地に見に行かずに買おうとしている。それを知っている相手はその状況を利用するに違いない。「いっそ勧めてきたのと別の方を買うべきかも」とさえ考えてしまうのだ。

が、Agentは長々と説明し出した。二つの物件を多角的に比較して、そのうち一つを推奨した。「自分も不動産投資をやっている。二十軒に投資している。不動産は私のパッション」と熱く語るのである。

私は半信半疑だったが、そのAgentが推奨する物件で進めるということで話はまとまった。

 

6.物件決定後のOnline Inspection(順序が逆)

売主は了承し、サイン以外は記入済みのContract of Saleが送られてきた。しかしこの時点で私はOnline Inspectionすらしていなかった。そのことをSeller Agentは忘れていたらしく、「いつ頃サインしてもらえるのかな?」と連絡してきた。

「いや、だからOnline Inspectionさせてくれないとサインできないってば」と言うと「そりゃそうだよねー」と早急にセッティングしてくれることになったのである。

 

7.Contract of Sale にサイン

それでOnline Inspectionをやってもらってその日の夜にContract of Saleにサインすると次の日には売主もそこへサインして契約は成立した。これらはDocuSignで電子的に行われた。

ところでコロナでハンコ文化は批判された。ハンコなんて使ってるから日本は遅れているんだと言う人がいるが、ハンコもサインも同じである。何が違うのか私にはさっぱり分からない。ハンコだって電子化できるし、現にそういうシステムは以前から存在している。電子化されたハンコシステムを利用しないことを批判するのなら、まあ理解できる。

 

8.Initial Deposit

即座にInitial Depositを振り込む。この額はEOIで事前に提案・了承されている。

 

9.SolicitorとConveyancer

不動産の売買・登記は通常、買い手と売り手、双方のSolicitor(司法書士)を間に挟んで行われる。今回、私はSolicitorではなくConveyancer に頼んだ。その方が安上がりだからである。(Solicitor の仕事は多岐にわたるが、Conveyancerは不動産関連だけ。)具体的にはKRG Conveyancingというところに依頼した。ただし自分からコンタクトしたわけでなく、予めEOIのSolicitor欄のところに記入しておいたら売り手側から連絡が行き、Contract of Saleが成立したらいきなりKRG Conveyancingから確認の電話がかかってきた。

 

10.Conveyancer 任命

KRG Conveyancing を売買の代理人として任命する書類にサインして返信。料金を振り込む。

 

11.Unconditional Approval 申請

Home Loan を確定させるためUnconditional ApprovalをMortgage Broker経由で申請する。追加資料を要求されるので提出する。

 

12.Building & Pest Inspections

Contract of Saleにおいて、「この契約はsubject to building inspections」ということにしておいた。つまり、建物の検査業者がチェックして、重大な瑕疵があれば契約無効になる(Depositも返済されるはず)。

新しめの物件だったので、Building & Pest Inspectionsをやるかどうか迷ったが、前述のSeller Agentが「安心料だと思ってやっておいた方が良い」と言うので依頼することにした。書類に記入して提出。料金を振込み。

 

上記7~12は2日間の出来事だ。かつて日本で働いていたとき、とある先輩が、他部署とのやりとりをキャッチボールに例えて「自分がボールを持っている時間をできるだけ短くしないとダメだ」と言っていた。ということで、私はボールを受け取るや否や返球した。

 

13.Pre Purchase Building Inspection Report

前述の建物検査が行われ、ちょっとした修繕すべき箇所が幾つか報告された。結果、売主が修繕を行うと同意した。よってBuilding & Pest Inspectionsの費用は余裕で取り返せたことになった。

 

14.Unconditional Approval

そうこうしているうちにHome Loanの最終承認が下りた。

 

15.Balance Deposit

上記13と14を受け、Balance Depositを振込み。この額はEOIにて事前に提案・了承されている。

 

16.テナント退去

Seller Agentから、現在住んでいるテナントが退去するという連絡を受けた。(何か危険を察知したのだろうか。)これは今回の売買契約に影響を及ぼすものではないが、念のための連絡である。しかしこのことが、後々ドラマを引き起こすのである!

 

17.Home Loan 契約書

Home Loanはすでに承認されているが、ここから銀行との契約へと進む。近所に住んでいるMortgage Brokerが、土曜日に書類を持って家まで来た。(電子版は別途受領。)

 

18.新しいテナント募集

この時点で物件は私の所有物ではないが、新しいテナントを募集することを売主は了承した。Seller Agentのアドバイスで、10ドルアップで募集したら数日後には新しいテナントが決まった。このSeller AgentはBuyerである我々の面倒も良く見てくれた。「この人、本当に善い人なのかも。こんなに親切なのはパッションのせいかも」と私も思い始めてきた。

 

19.Witness

前述の銀行との契約書Mortgage Executionにサインする際、Witness(証人)が必要となる。Solicitorは証人となり得るが、私の代理人はConveyancerで、Witnessになる資格がない。困った。費用をケチるからだ。他に資格のある人は… Justice of the peaceというのがある。日本語訳としては治安判事とか下級裁判官となるらしい。で、調べてみるとPolice Station等にJustice Service Centreが併設されており、そこでJustice of the peaceに会える。行ってみたら小部屋におばあちゃんが座っていてWitnessになってくれた。多分、一線を退いた判事などが趣味で働いているのだろう。宣誓してサイン。無料。

 

20.Acceptance of Loan Offer

銀行との契約書の一つにAcceptance of Loan Offerというのがあり、それにサイン。私はこれを銀行の支店で行った。(郵送する場合もある。)加えてHome Loan返済用の口座開設。これらの書類は銀行の別部署に送られて最終確認が行われる。

 

21.Settlement

全ての作業はこの、Settlementを目指して行われてきた。

さて、EOIに関して「お気楽に出して良い」と上述した。けれどもそこに記入する内容は決して「お気楽に」決めてはいけない。

「Settlement Date はContract of Sale(Sellerがサインした日)から何日後」という項目があり、初め私は45日後と書いて提出した。45日は選択肢のうち最長だ。(もし複数の購入希望者が同価格でオファーしたら、この日程は短いほどSellerに好まれるかもしれない。)

が、Seller Agentから、「普通は45日も必要ない。30日にして」と依頼があった。で、我々はMortgage Brokerに確認もせずに了承し、EOIを書き換えた。だがそのことをMortgage Brokerに事後報告すると、その顔は青ざめた。(というか電話だったから想像。)

「わ、分かった…。銀行の尻を叩くわ」

この低金利でHome Loan申請者が殺到し、銀行はてんやわんやの状態だったらしい。

Settlementは銀行、Sellerの代理人= Solicitor、Buyerの代理人= Conveyancer が連絡を取り合って執り行われる。

しかし、Conveyancerが銀行の審査部署にコンタクトしても、最後の最後まで連絡がつかなかった。

銀行は、我々が提出した書類に不備があるからという理由でまだConveyancerとは話せないと言うのだ。しかし実際には不備などなく、それは単に彼らの早とちりだった。(私はオーストラリアで、しょーもない確認ミスによって物事が進まないということを嫌というほど経験している。)

 

さてここで、新しいテナントを決めてしまったことが齟齬を生むこととなる。新しいテナントはSettlement予定日の翌日に引っ越してくることになっていたのだ。もしSettlementが流れたら、彼らは行き場を失う。

(もし流れたら、物件の所有者はSellerのままだから、単にSellerが新しいテナントに短期で貸せばいいだけの話である。だから私は何が何でもSellerに新しいテナントを住まわせることを了承させるつもりだったが、その交渉はSettlementが正式に流れるまで禁じられていた。変なルール!)

 

ここで我々のMortgage Brokerが大活躍した。書類の不備というのは銀行側の勘違いであることを認めさせ、尻を叩きまくってこの案件の優先順位を上げさせた。また銀行とConveyancerを仲介して両者を対話に持ち込むことに成功した。知人でなかったらここまでやってくれなかっただろう。御座なりな対応でお茶を濁すだけだろう。

 

そしてSettlement予定日当日…。晴れてSettlementは為された。Conveyancerも苦労した案件だったのか、喜んでいるようだった。(他にもいろいろゴタゴタがあったが複雑なので省略した。)

また、新しいテナントは無事に入居したようである。

 

後日談

先日、航空券が安かったこともあり、Gold Coastへ旅行に行ってきた。

「現地を見ずに購入した物件」はGold Coastからは一時間以上かかるところにあった。私はその物件を見に行くべきだろうか?

過ぎたことにはこだわらず、今を楽しむ(旅行自体に集中する)べきかとも考えた。

実はもう一軒購入することも考慮しており、気になるSuburbを見て回るということもしたかったのである。四日間という限られた日程で。

が、今後の家賃設定に役立つかもと思って、やはり見に行くことにした。

当然、家の中は見れない。お忍びで近隣の雰囲気を見るだけである。結果…「まあ、良かったんじゃない」というのが感想である。

 

Settlementの後、Seller Agentもすごく祝福してくれた。しかし今回の取引の真の勝者は自分だと彼の地で高笑いしているかもしれない。私は疑り深いのだ。

でも機会があれば、もう一度あのAgentから買いたいと思っている。