毎月20万円 日経平均にぶち込んだ男の末路
少し前、オーストラリアで株取引の口座を新たに開設した。考えることは皆同じらしい。
「口座開設が急増 株価急落で初心者参入」とか「投信の積立額が増加 株価下落で個人が開始」といった記事を見かける。
これらは日本の話である。ということは、やはり多くの日本人はこういった機会を狙ってキャッシュポジションを高めていたのだ。(しつこい?)
私も多くの日本人に見習って、ここ1~2年、キャッシュポジションを高めておいた(これはマジで)。というのも、私は過去に苦い経験をしているからだ。
ドルコスト平均法
日経新聞で、リーマンショックから毎月5万円積み立てていたらどういう結果になったか? という記事があった。
チャート(全世界の株価指数)の右軸を見ると、最終的に累計積立額が300万円弱で、資産が400万円弱になっている。つまり100万円ほど儲けた訳だ。
毎月一定額積み立てるということは、つまりドルコスト平均法だ。ドルコスト平均法では、たとえ到達点が同じであっても
順調に上がるより、一旦大きく下がってから上がる方が得する。(安値でいっぱい買うから)
私は過去に、この図と全く同じ経験をした。
楽観の後の暴落 ― ありがちなパターン
私は過去に、毎月20万円ずつ日本株ファンド(ほぼ日経平均)に7年間ほど積み立てていたことがある。
何を根拠にそんなことをやり始めたのか、今となっては理解に苦しむ。恐らく当時世間に漂っていた楽観ムードに影響されたのだろう。あの頃私は無知だった。
前述のチャートよりも1~2年早い時期から始め、初め株価は順調に上がって行った。
ところがリーマンショックとそれに続く世界金融危機により暴落したのだった。
同時に激しい円高が起こった。
いつかオーストラリアに移住すると決めていたから、その過程で7万ドル分の豪ドル買いポジション(後で両替可能)を平均66.4円で取った。
ところが結局豪ドルは1ドル55円まで達した。
関連記事「1豪ドル=70円 は買いか? ― お得な両替方法」
冷静な目で見ると1ドル55円は極めて魅力的なレートである。買付余力もまだ十分にあった。だが私はそれ以上買いを入れることができなかった。なぜなら日本株の大きな含み損があったからだ。だから私はこういった状況で、人間がどんな心理状態になるかよく知っているつもりだ。
暴落局面で買いに行くためには、買付余力という物理的な準備に加え、買う気満々という心理的な準備をしておかなければならない――ということを私は学んだのである。
毎月20万円 日経平均にぶち込んだ男の末路
一方、日本株の方は毎月20万円ずつの積み立てを続けた。暴落した時点で手仕舞いしてしまったら、単に損して終わるからだ。
途中、東日本大震災もあった。それでも買い続けた。そして段々、達観して?こんな気分になってきていた。
「こんなに長い期間、安値で買い続けたんだから、ちょっと回復するだけで一気にプラスが膨れ上がるのでは?」
実際その通りになった。アベノミクスが始まったのである。
あれよあれよと言う間に株価は上がり私の長期投資?の出口を作った。私は単にラッキーだった。
前述の日経新聞の試算では毎月5万円で100万円の利益だ。私は毎月20万円で、より長く安値を続けた日経平均に投資したのだから…まあ、想像できるだろう。
ところでその利益と下落時に買い続ける心理的ストレスは釣り合うだろうか?
多分そんなに釣り合わない。人間、できれば心安らかに生きたい。
にもかかわらず私はオーストラリアへと舞台を移し、ここでまたも同じことをやろうとしている。個別株を買いながら、ドルコスト平均法でインデックスへ積み立て始めたのである。
ドルコスト平均法という名のマゾヒズム
今後、株価は ①V字回復する説、②大規模な金融緩和のせいでバブル化する説、③長期低迷する説、④新たな金融危機を誘発する説、等いろいろある。どのシナリオを辿るのか、私にはさっぱり分からない。ただ前回と違うのは、自分が何をやっているのかはっきり理解しているところだろう。
今ではドルコスト平均法のドMな悦びも知っている。これは市場が下がると、痛みと共に快感が得られるのである。
「指示待ち」ではないオーストラリアの働き方
最近の状況は東日本大震災に重なるところがある。
地震が起こったとき、私が働いていた東京のオフィスは激しい揺れに見舞われた。
避難訓練では机の下に隠れろと習う。しかしあの揺れが起こった瞬間、それが正しい行動なのか判断しかねた。
机の下に隠れるべきか屋外に出るべきか―?
数秒後、私は屋外に出ることを選んでいた。他にも多くの社員が外に出て、尋常でない揺れ方をする近隣のビルを見た。
しばらく経つとガラケーのインターネットが繋がるようになり、震源地は東北の方だと誰かが言った。
東北が震源地で東京でもこの揺れ! とんでもないことが起こったのだと私は悟った。
大地震の後に余震は付き物である。私はもう社屋に戻りたくなかった。
また気分の高揚のせいか、ちょっとした悪戯心が芽生えた。
「このまま家に帰ってしまおう」
社会人として褒められた行為ではないが、私は混乱の中、誰に告げることもなく会社の門を出た。
指示待ちな社員
しばらく歩くと、他部署の後輩数名が路上でたむろしていた。
「こんなとこで何してるの?」私は訊いた。
後輩「会社から何の指示もないからここで待機してるんです」
私「帰っていいよ。自分は帰る」
私は彼らに指示する立場でも何でもなかったが、はっきり「帰っていい」と断言して立ち去った。
そもそもその職場はフレックスタイム制で、「会社にいなきゃいけない時間」はすでに過ぎていた。だから地震があろうがなかろうが、もう帰っていいのだ――というのが私の論理だった。
会社というのはつまらないことで足を引っ張り合うところだから、「あの非常事態に点呼や安否確認もせずに帰るとはどういうことだ!」と後日、私を非難するのは容易だったろう。他部署の後輩たちは、そういった組織の陰湿な性質を警戒し、指示を待っていたのだ。しかし私の中では「全員無事なのは明白だった。大地震に余震は付き物だ。だから一刻も早く社屋から離れるべきだ。私は常識的に行動して自分の身を守ったにすぎない」という反論がすでにできていた。
信じられないことに私が帰った後、何百人という社員が社屋に戻り、不要不急の作業――地震で乱れた棚の整理とか――に従事したという。もし私に、彼ら全員に指示する権限があったら、絶対にそんなことは許さなかっただろう。仮に余震があって人命が失われでもしたら、一体どうやって償うと言うのか?
Work from Homeできない職種
私はオーストラリアで研究開発職に就いている。
この仕事の根本の部分はWork from Homeできない。
デジタル製品ではないので、現物を試作して測定機器を使って評価する――という試行錯誤を繰り返さなければならない。
もちろん書類仕事(パソコン仕事)もあるが、それは製品開発に付随したものだ。だから常に、開発が「主」で、書類仕事は「従」である。
もしその序列が逆転してしまっている組織があるとしたら、そんな企業は競争力のある製品を開発できないから早晩衰退することになるだろう。
意外なことに、それは往々にして起こり得る。
私は日本の会社で働いていたとき、社内向けのプレゼン資料やリスク管理の書類を山ほど作っていた。(作らなければならない組織の仕組みになっていた。)
それらは何の利益も生み出さないが、それをやっていても給料は毎月振り込まれるから、人によっては有意義な仕事だと勘違いするだろう。また確実に、社内向けのプレゼン(それ自体は一円も生み出さない)を立派にやる方が評価される。本業に集中するためにプレゼンを雑にやったりすると評価されないのである。
…と、このように物事の序列は容易に入れ替わってしまうのである。
そんな指示出てないけど…
オーストラリアの私の部署に、3月の中旬頃、マネジャーからこんなメールが来た。
「今後の状況次第では、全員出社できなくなる可能性がある。だからいつでもWork from Homeできるよう準備しておくように」
準備というのは具体的にはパソコンのVPN設定である。IT部門の社員がやって来て、順番に設定して行った。
すると…。
設定が終わるや否や、私の同僚たちは先を争って帰って行くのである。
そして翌日、職場からは誰もいなくなった。私以外は。(マネジャーは皆に先駆けてWork from Homeを始めていて、前述のメールは家から送って来ていた。)
Inconsistency
私の部署(R&D)からは誰もいなくなったが、隣の部署(品質保証)は普通に稼働していた。また製造部門も通常通り稼働していた。
それらの部署は絶対にWork from Homeができない部署である。また前述したように、R&Dも根本的な部分ではWork from Homeできない。
これではあまりに一貫性がない。
初期の段階で私は、「同僚たちはパニックWork from Homeしてるけど、そのうち我に返って出社するだろう」くらいに思っていた。ところが翌週も彼らは戻って来ない。
週1のノルマ
「こんなことがずっと続くわけがない」
1人になったラボでそんな風に考えながら働いていると、マネジャーからメールが来た。
「CEOや他の経営者たちが懸念を示している。私は彼らに確約した。開発は決して遅らせないと。だから週に1~3回は出社するのが望ましい」
(前に彼は、準備せよと指示しただけだったが、このときにはWork from Homeしていることが前提になっていた。)
「そりゃそうだろうよ!」私は思った。
R&DがWork from Homeするということは、経営側からしてみれば、何も生み出さない連中に結構な給料を払い続けるということだ。
ところで私はこうも思った。
「週に1~3回の出社で間に合う研究開発って、今までどんな仕事をしていたんだ?」と。
やがて同僚たちは、ポツリポツリとやって来た。週1のノルマをクリアするために。
Superficialな会話
この期間、ZOOMを使ってビデオ会議が行われるようになり、私だけ会社から出席?した。その中でマネジャーはWork from Homeしている同僚たちのメンタルヘルスを気遣った。
「どうにかやっている」同僚たちは答えた。それがさも困難なことのように。
「マジかよ?」私は唖然とした。
この人たちは明らかに何かを取り違えている。メンタルヘルスについて最近世間で取り沙汰されているのは、職を失い先行きの見えない人々が家で悶々とする生活を送っているからだ。(私がオーストラリアに移住し、就職活動で苦労していたときの気分がそれに近いだろう。)
だが同僚たちの収入と身分は確保されており、おまけにWork from Homeという名の有給休暇まで得ている。彼らのメンタルヘルスはむしろ改善しているはずだ。今回の騒動の勝ち組なのだから。
私は呆れた。そしてこう決意した。
「こうなったら意地でもWork from Homeなんてやるか! 絶対にやってたまるか!」と。
メルボルン立て籠もり事件
公式データではビクトリア州の累計感染者は10万人中20人に満たない。その中で発症し治療を受けている人は12%ほどしかいない。つまり10万人中2人だ。だからどんなに頑張っても、感染して治療を受ける症状に至るのはほとんど不可能なのである。
とは言え自分が感染源になるという失態は避けねばならない。会社ではマスクと保護メガネと手袋を着け、換気を良くした。ラボだからそういった装備はふんだんにあるのだ。
また、昼食の弁当は自分の車の中で食べるようにしている。たまにやって来る同僚や他部署の人たちと同じ小部屋で食事したら、私の行動はたちまち一貫性を失い、会社に立て籠もっていることを正当化できないからである。
「指示待ち」ではないオーストラリアの働き方
危機管理能力に長けた私の同僚たちは自分の頭で考えることができるため、上からの指示を待たずに先んじて行動できる。彼らはコミュニケーションにおいても極めて洗練されており、ビデオ会議ではお互い触れて欲しくない部分には立ち入らない。本音と建て前を使い分けることは一種の洗練である。
一方、サラリーマン根性の染み付いている私は指示がなければ自発的には行動できない。
こうして私は今日も一人ラボに立て籠もり、全員撤収の指示を待ち続けるのである。
家賃交渉/シェアハウス脱出のすすめ
ある確かな情報筋によるとシドニーの不動産屋には、家賃値下げ要求(懇願)が殺到しているらしい。事の流れはこうだ。
- 新型コロナウイルス問題発生!
- 失業者続出!
- 収入も貯金もない!
- シドニーの家賃は元々高すぎた!
- だから家賃安くして!
- 政府から補助金貰えるでしょ?
- 自分はその対象外。だから家賃安くして!
また、中途解約の申し込みも多く(そして実家に帰る?)、入国制限もあり、今までの家賃では空室を埋めるのが難しくなっているらしい。
そもそも論として、以前から「2017年以降はアパートメントが供給過剰になる」という推測もあった。
これらをひっくるめて、今、rentが下がっているらしい。テナントもdesperateであるが、大家たちもまたdesperateなのである。
初めての賃貸探し
2004年にシドニーに滞在していたとき、ご多分に漏れず初めの1か月ほどはホームステイをした。
その次はシェアハウスだ。このときはCentralとMuseum Stationの間にあるhigh-rise(タワマン)に住んだ。
私自身はそこに満足していたが、とある事情でフラットメイト達の不満が高まった時期があった。そこで私はふと、オーストラリアの賃貸サイトを閲覧したのだった。
これは極めて画期的な行動だった。
地上に降りたサルがあるときふと二足歩行してみた――くらいのインパクトである。
当時、私の周りにいたワーホリの人たちや留学生には全くその発想がなかった。住居探しと言えば日本人なら日本語サイト、韓国人なら韓国語のサイトでやるのが当たり前だった。
ともかく私はその賃貸サイトで、近所に2Bed 2Bath + sunroomの物件を見つけた。それもかなりあっさりと。
Museum Stationのそばで、私が通っていた学校に徒歩1分の距離。家賃は週500ドルだ。私は計算した。
マスターベッドルームに3人、セカンドベッドルームに2人、サンルームに1人、光熱費がこれくらいで…。よし、今より安くなりそうだ。
初めてのインスペクション
その広告は大家(パートタイムの消防士)が直接載せたものだった。話は進み、インスペクション当日、大家とそのガールフレンドが尋ねた。
「何人で住むつもりなの?」
私は何ら悪びれずに答えた。「6人」
「まあ、大勢だこと!」
私は何と天然だったのだろう!
若いというのは怖いもの知らずだ。
通常、アパートメントの入居可能人数は ベッドルーム数×2 である。
あるいは昔はそんなregulationはなかったのだろうか? いやあったはずだ。
ただし消防士たちの顔は引きつってはいなかった。話はとんとん拍子に進み、我々は6カ月の賃貸契約を結んだ。
私はこのとき、収入証明など一切提出していない。そこはFurnishedだったから、我々のような短期滞在者を対象にしていたのだろうが、もし不動産屋を介していたら、書類で落とされたかもしれない。ましてや6人で住むことなんて許されなかっただろう。
理想のシェアハウス
元々住んでいたシェアハウスには運営者とそのガールフレンドを含めて7人いた。(日本語サイトでシェアハウスの運営者をオーナーと呼んでいるのを見かけるが、彼らは断じてownerではない。)
そのうち4人(私含む)が、新しいアパートメントへの引っ越しに応じた。と言うか、事前にそう決まっていた。そして新たに2人をあっさり見つけ、予定通り6人で1人当たりの家賃を抑えることに成功したのだった。
情報の非対称性
新しいシェアハウスでは、消防士への家賃支払いは私が担当した。私がフラットメイトたちから徴収し、期日通りにきっちり振り込んだ。
それでアジア系への信頼が増したのか、6か月の契約終了前、大家は私に言って来た。
「次に住む人を見つけてくれたら100ドルあげるよ」
そんなのは朝飯前だった。私はまたもあっさりと次のテナント(日本人)を見つけた。
しかしその消防士がわざわざ100ドル払って頼んで来たということは、我々の間には情報の非対称があったらしい。(大袈裟な言い方!)
つまり消防士は英語のサイトしか使わない、日本人は日本語のサイトしか使わない、よって需要はあるのに供給されないというミスマッチが起こっていたということだ。
家賃交渉/シェアハウス脱出のすすめ
ここまで思い出話を書き連ねたが、私が話をどこへ持って行きたいかお気づきのことだろう。冒頭で述べたように、今、一部の大家はdesperateである。
Desperateな大家はテナントの属性になど構っていられない。ワーホリや学生の寄せ集めでも了承するだろう。(現に消防士は全く気にも留めていなかった。)また、家賃や契約期間の相談にも柔軟に対応するだろう。(賃貸サイト以外にも、Airbnbでも交渉してみるべきだ。)
コロナ問題でオーストラリアから退場を余儀なくされた人も大勢いるのかもしれない。しかし運良く影響が軽微だった人にとっては家賃交渉の好機である。また、劣悪な環境のシェアハウスから出て、自分たちで理想のシェアハウスを始めるチャンスでもある。
Rentが下がる現象は、一説によるとシドニーに限らずあちこちで起こっているらしい。
シドニーでお勧めのSuburb
Wentworth Pointはアパートメントの供給過剰でコロナ以前からrentの値崩れが起こっていた。今はもっとヤバいことになっているかもしれない。
Wentworth Pointは別の理由からもお勧めだ。例のCostcoに近いからである。
過去記事「オーストラリアでサーモン刺身を安く美味しく食べる方法」
SMSFという偏愛
私は日々、ファンドマネジャーとして並み居る猛者たちを相手に生き馬の目を抜くような闘いを繰り広げている。
AustralianSuper, Cbus, Hostplus…彼らは幾度となく拳を交えた強敵(とも)だ。
戦績はこうなっている。
一年目 五分五分
二年目 押され気味
三年目 負けていたが…
三年目はあと三か月残っているが勝利宣言していいだろう。
私のSelf-managed Super Fund (SMSF) は今年度、Industry super fundたちとの死闘を制した。
関連記事「毎年5万ドル以上Super(私的年金)にぶち込んだ男の末路」
仲間たち(SMSF保有者たち)はどうだろうか?
非常に心配である。なぜなら、多くのSMSF保有者たちはIndustry Super Fundとの闘いに、ことごとく敗れ去っているからである。
SMSFで投資できるもの
個別株はもちろん、不動産、土地、為替、先物など、一般に投資(投機)とされているものなら大抵OKだ。アートやビンテージワインでさえ投資とみなされる。
注)SMSFで保有する不動産を自宅にすることはできない。
SMSFという偏愛①
SMSFなんてものをわざわざ開設する人は、独自のアイデア(思い込み)を持っていて、その対象に偏重した投資をするらしい。
その偏重ぶりがあまりに酷いので、ATOから「もっと分散しなさい」とのお達しがあったらしい。ATOはSMSF保有者たちの「低すぎる金融リテラシー」を危惧している。
これは何となく想像がつく。きっとアレに一点投資しているに違いない。オーストラリアはアレの偏愛者だらけだ。
「不動産投資するならSMSFを開設した方がいい」とか「この物件はSMSFに最適」――そんな文言を何度も見たことがある。
そういうのを見るたび、Superの中の税率が有利なんだったら不動産に限らず何の投資でもいいじゃないか? といつも思ってしまう。
ちなみにSMSFから不動産投資する場合、ローンの利子は高くなる。
だから私自身はSMSF内で不動産投資をやろうとは思わない。
注)分散するのが必ずしも正しい訳ではない。が、SMSFの投資先はある程度分散しなければいけないというルールがあるようだ。
SMSFという偏愛②
SMSFで高配当株に投資するという手法がある。
「株の配当金が税引き後に増える怪奇現象」で解説したように、二重課税をしないのがオーストラリア国のポリシーだ。
配当利回り6.5%の株があったとしよう。
その場合、Super内では以下の計算によって利回り7.3%になる。
6.5 – 6.5 x (15 – 27.5)/100 = 7.31
(Fully frankedの場合。詳しくは過去記事を参照して欲しい。ちなみに法人税は今後徐々に下がって行く。)
彼らの偏愛の対象として、かつてTelstra株というのがあった。
「Telstraは高配当で安定している。あわよくば株価の上昇も狙える。でも投資は自己責任で」などとファイナンシャルアドバイザーが高齢者に吹き込むのかもしれない。
ところがある時、Telstraが「このままでは競争に勝てないので、今後、配当は減らします」と宣言した。
元々下落傾向だったTelstra株は、それによってさらに急落してしまった。
SMSFという偏愛③
ビジネスオーナーの場合、自分のビジネスにオフィス(店舗)を貸すという方法がある。
SMSFで商業用の不動産を購入し、それを自分自身に貸すのだ。
これはかなり込み入ったスキームだ。
SMSFとしては確実に賃料を受け取ることができ、本人はせっせとSuperannuationを積み立てることができる。
これについて私は意見する立場にない。正直よく知らないからだ。滅多に使えないスキームだがビジネスオーナーは検討してみてはいかがだろうか?
SMSFという偏愛④
私のポートフォリオはP2Pレンディングに偏重している。
なぜそうなってしまったか?
私はオーストラリアにおいて、かなり早い段階でP2Pレンディングの優位性を見出した。
P2Pレンディングの二つのプラットフォームを使っているが、「P2Pレンディングでボロ儲け」で紹介したRateSetterのリターンは当初11%近くあった。
「こんなに利回りが高いのなら、なんで敢えて株や不動産に投資する必要があるんだろう?」
私はかなり大胆にRateSetterに資金を投入した。
(しかし今やRateSetterの利回りは下がりさほどオイシイ投資ではなくなった。一方で株式市場は暴落したのだから、今後、私の偏愛は株へとシフトするだろう。)
次に生じた考えはこうだ。
「今以上稼いでも、かなりの割合を税金で持って行かれる。これではリターンvsリスクが割に合わない。私は投資を余剰資金でやっている。ならいっそ税率の低いSuper内で投資した方がいいのでは?」
ということで、esuperfundというプラットフォームでSMSFを開設した。
SMSFの利点
- 何にでも投資できる。よって今回のような金融市場の暴落を回避できる。
- Superの外でやっている投資をSMSF内に移行できる。
- 最大4人が参加できる。(例えば家族で。)より多くの資金を「偏愛」の対象に注入できる。
- 手数料が低い。一般には高いことになっているが、それはSMSF管理会社にお任せした場合だ。esuperfundはDIYだ。ある程度の資金を超えると手数料は一般のSuper Fundより低くなる。
SMSFの欠点
- 手数料が高い。たぶん多くのSMSF保有者は、その管理をSMSF管理会社に任せている。この場合、手数料は高い。
- 私はDIYでやっている。この場合、手数料は低いが管理が超面倒くさい。年一回、SMSFのauditに備えなければならない。一応、esuperfundの指示通り書類を揃えればいいのだが、初心者にはかなり難しい。よほどpassionがないとやってられない。
SMSF vs 一般のSuper Fund
以下、APRA fundsが一般のSuper Fund。出所:ATO/SMSF investment profile
これを見るとSMSFは大抵負けていることが分かる。骨折り損のくたびれ儲けである。
「ほぼ確実に2億円貯める方法」を書いた時、私自身はSMSFを運営していたが、上図のような結果を知っていた。だからさり気なくAustralianSuperを推したのだ。
果てしない闘い
敷居が高いSMSFだが、上述のように、その保有者は必ずしも投資が得意という訳ではない。
彼らは高いリターンを追及するというよりも、自己の偏愛を満たすために手間(もしくは手数料)をかけてSMSFを運営するのだ。Industry Super Fundとの勝負は二の次なのである。
一方、少数派ではあるが私のようにIndustry Super Fundに真っ向勝負を挑む者もいる。
強敵(とも)との闘いはこれから10年も20年も続くのである。
毎年5万ドル以上Super(私的年金)にぶち込んだ男の末路
私は過去にSuperannuation(私的年金)に自ら入金することによって節税できることを紹介した。
また別の記事において、それを続ければ2億円貯めることも決して難しくないと算出して見せた。
さらにその記事中、節税効果を最大限活用するために私自身は毎年全力でSuperにぶち込んでいると述べた。
全力というのは上限いっぱい 25,000ドル×2人分 = 50,000ドル ということである。
(課税所得を減らし節税目的でSuperへ入金することをConcessional contributionsと呼ぶ。)
実のところ、この毎年の5万ドル以外にも投資資産をSuper内に移している。(この表現の意味は後で分かる。)
と言うのも、Super内での投資リターンには税金が15%しかかからないからである。
(課税済みのお金や投資資産を入金することをNon-concessional contributionsと呼ぶ。)
さて、金融市場が大荒れに荒れているのは周知の通りである。
私のSuperannuationの状況は、誰もが興味を持つトピックに違いない。
私とSalary sacrificeの出会い
私はオーストラリアに移住する前から上記のように課税所得を減らして節税する方法を知っていた。
オーストラリアの税制をネットで調べていたときに知ったのだ。
「こんなウマイ話があっていいのか!?」
私は自分の目を疑った。そしてATOのサイトを熟読したものである。
何度読んでもそれは圧倒的に有利なことに思われた。そして決意した。
「よし! オーストラリアでお金を稼ぐようになったら絶対にsalary sacrificeで節税するぞ!」と。
注)ここでのSalary sacrificeは給与所得者が行うConcessional contributionsのこと。他の意味もある。
さてオーストラリアに移住してみると、誰もそんなことは知らなかった。周りにいる人間の多くが移民だったからかもしれないが。
初めに就職した会社(小さな会社)でその設定を頼むと怪訝な顔をされた。しかし説明してどうにかやってもらった。
そして妻にも同じことをやるように勧めた。
ロジックでは確実に得することが分かっているのだが、実際やるには心理的な抵抗がある。
だがTax return後、支払った税金が少なかったことが確定すると彼女のテンションは目に見えて上がった。
節税はズルいのか?
Concessional contributionsをやる人はお金に余裕があって節税できてズルい――と主張する英語の記事を見かけたことがある。
これは本当にバカげている。
毎年全力でConcessional contributionsをすると、年々Superの残高が増える。
リタイア後、SuperのBalance(残高)が多すぎるとAsset testで引っかかり、Age pensionは貰えない。
あの「羨ましすぎるオーストラリアの年金①」を受け取る権利はなくなるのである。
毎年全力でConcessional contributionsするという行為は、「将来、オーストラリア国のお世話になるつもりはございません」と宣言しているようなものだ。
オーストラリア政府にとっては一時的に税収減かもしれないが、将来の福祉コストを大幅に減らせる。よって政府は人々にConcessional contributionsを促しているのである。
注)リタイア後に途中でSuperの残高が減ればAge pensionの権利は復活するはずである。確認してないが。
毎年5万ドル以上Superにぶち込んだ男の末路
ここまで勿体ぶってきたが結論を言うと、私のSuperはなんと無傷である。
無傷どころか粛々と7%程度のリターンを出し続けている。
なぜか?
Self-managed super fund (SMSF) を開設し、conservativeなポートフォリオを組んでおいたからである。
そしてSuperの外でやっていた投資の半分くらいをSuperの中に移してある。そこではリターンにかかる税率が15%だから。
SMSF
SMSFとはつまり、自分で好きなように運用するSuper fundということだ。
私のポートフォリオと各リターン
P2Pレンディング 7 ~ 9 %
不動産開発への融資ファンド 6 ~ 7 %
社債 5 ~ 6 %
P2Pレンディングがconservativeか? と思われるかもしれない。
その疑問には「P2Pレンディングでボロ儲け」で力説しておいた。
少なくとも私には、ちょっと前までの過熱しすぎだった株式市場よりはるかに安全に見えていた。
金融リテラシーが高すぎる多くの日本人と同様、私の嗅覚もそこそこ鋭かったようだ。
もっと鋭ければ、華麗に逆転してみせた日本人たちのように何かの売りポジションに賭けていただろう。
私のポートフォリオを構成するものは資産価値が上下するものではなく、Fixed incomeに相当するものであり、換金も可能だ。
P2Pレンディングや不動産開発への融資ファンドは今後、実体経済が悪化するに伴いリスクが上がるだろうからそれに備えるつもりである。
なぜ今までSMSFを記事にしなかったのか?
このブログはオーストラリアで生計を立てることや投資について試行錯誤する場のはずだ。
にもかかわらず今までSMSFを記事にしなかったのはなぜか?
複雑すぎるからである。万人に推奨できるスキームではないし、興味を持ってくれる人もほとんどいないだろう。
とは言えひょっとしたら私と同じようなpassionを持つ人がいるかもしれないので、次回あたりSMSFの詳細について書いてみようかと思う。
多分ワーホリの人や留学生なんかは見向きもしてくれないだろうが。
豪ドル売りに賭けた日本人たちの華麗なる大逆転
The Big Shortという映画を観たことがあるだろうか?
(邦題:マネー・ショート 華麗なる大逆転 オーストラリアでもNetflixで日本語字幕付きで観れる。)
2008年頃の世界金融危機を前もって予測し、空売りに賭けた人々の話である。
彼らが空売りを仕掛けた頃、金融市場は逆に盛況だったから、彼らは他人からバカにされ笑われていた。
果たして結果は? それは誰もが知るところである。
私には、空売りに賭けて最終的に勝利した彼らと、平均的な日本人の姿が重なって見えて仕方がない。
日本人の高すぎる金融リテラシー
「日本人は投資しない。だからダメなんだ」と言う人がいる(いた)。
「日本人は金融リテラシーが低いから投資しない」と彼らは言うのである。
事実、日本人は貯蓄性向が高い。
ポートフォリオは「円預金一本」というのが多い。
だがこの現象は、私には真逆に見えていた。
平均的な日本人は金融リテラシーが高いからこそ日本円キャッシュポジションを高く維持しているのだと。
①期待できない日本株式&不動産市場
②潜在的なデフレ圧力=円高圧力
③よって円預金一本のポートフォリオはそれなりに経済合理的
ちなみに、金融リテラシー調査において、日本人は諸外国に比べてテストの点数が低い。
私はこの結果について、「日本円に投資した時点でそこそこ合理的な選択。それ以外の投資をやる必要がないんだから日本円投資以外の知識は少なくて当たり前」と解釈している。
専門家による警告
現在、金融市場では久方ぶりの暴落が進行中である。
世間では暴落と言って騒いでいるが、世界最高峰の知性たちは前々からそれを警告してくれていた。
シラーPER(CAPEレシオ)
ノーベル経済学賞受賞 ロバート・シラー教授提唱。シラーPERが25倍以上だと株価は割高。
アメリカでの過去の大暴落は株価指数のシラーPERが25倍以上という期間がある程度続いた後に起こっている。
リーマンショック 52か月
今回 67か月
今回はリーマンショック時を超えて割高状態が続いていた。(割高のマグマが溜まりに溜まっていた。)
バフェット指数
ウォーレン・バフェット提唱。株式市場の時価総額の、名目GDPに対する割合が100を超えると割高。
ITバブル 150
リーマンショック 110
今回 160
これらはアメリカ市場の話で、日本市場について私は知らないが、ほとんど同じはずだ。
平均的な日本人は金融リテラシーが高いから、当然これらのことを知っていて日本円キャッシュポジションを高めていたのだろう。
君子危うきに近寄らずだ。
豪ドル売りに賭けた日本人たちの華麗なる大逆転
最近、豪ドル/円 チャートを見ていてハッと気付いた。
そうか、これだったのか! 日本人たちが狙っていたものは!
私のようにオーストラリア在住で、豪ドル経済圏で生活している者から見ると、円預金一本の日本人たちは「円買い豪ドル売り」ポジションをレバレッジ1倍で持っているのとほぼ同義である。
以下に豪ドル/円のチャート(月足)を示す。
アベノミクスは2012年12月から始まった。
その後、株式市場が活況の中、平均的な日本人たちは笑われようがバカにされようが頑なに円預金を固持した。
彼らが密かに実践していたこと――それは豪ドル売りだったのだ!
オーストラリアはインフレ傾向で緩和余地がある。まだゼロ金利ではないし、量的緩和は行ったことがない。緩和は物に対して通貨の価値を下げる措置である。日本は真逆で潜在的にデフレ圧力に晒されている。アベノミクス開始から数年はインフレ期待で円安株高が起こったものの今や緩和余地はもう残っていない――つまり円高・豪ドル安は必然…。
恐るべき日本人たち。ウィルス騒動が収束するころ、彼らはおもむろに動き出すだろう。
あれも安い、これも安いと言ってオーストラリアの資産を買い漁るに違いない。
とは言え目立つのを嫌う彼らのことだから、旅行や留学や移住の初期費用に豪ドルを「買い戻す」というささやかなものだろうが。
オーストラリアでサーモン刺身を安く美味しく食べる方法
私が中学生だったある日、友人たちが話していた。
今日からテレビで「美味しんぼ」が始まるぞ、と。
私はそういう芸能情報?に疎い子供だったので何のことか分からなかったが、ともかく夜にそのアニメを見てみた――これが私の「美味しんぼ」との出会いである。
その後数年経って「美味しんぼ」の原作者はオーストラリアに住んでいると聞いた。
外国に移住するなんて途方もないこと。「美味しんぼ」の作者ならそんなことも可能なのか――と思った記憶がある。
それが今では自分もオーストラリアに住んでいる。人生分からないものだ。
シドニーの図書館(Customs House LibraryとかJapan Foundation)には「美味しんぼ」が置いてある。
そこから借りてきて久方ぶりに読んでみたら新たな発見があり面白かった。
初期の巻ではオフィスにパソコンはなく、原稿用紙に手書きしている描写がある。
「バブル景気に沸く驕った人々 vs 主人公たち」のような構図もある。
40巻ではタスマニアにおけるサーモンの養殖が紹介されており、さりげなくtassal(サーモンの養殖を行っている会社)の文字が描かれている。
タスマニア旅行した際、私はわざわざtassalのオフィスを見に行った。
それは何の変哲もないオフィスだった。(行く場所が間違っている! 養殖場に行くべきだ。)
オーストラリアでサーモン刺身を安く美味しく食べる方法
さて本題に入る。以下の手順を遵守すれば良い。
①Costcoの会員になる。年間60ドル
②FRESH AUSTRALIAN SALMON FILLETを買う。32.99ドル/kg
③一食分に小分けする
④ラップ&ジップロック
⑤24時間以上冷凍する
⑥食べる5~8時間前に冷蔵庫に移す(冷蔵庫に長時間置かない方が美味と思う)
⑦食べる直前にお好みの形にスライス
寄生虫 - アニサキスの問題
CostcoサーモンのラベルにはFARMED IN TASMANIAと書いてあるから養殖品ということだろう。(前述のtassalかどうかは分からない。)
徹底管理された養殖サーモンには寄生虫はいない(もしくは稀)という説がある。
私の知り合いに、勇敢にもCostcoサーモンを買ってきてそのまま生食している人がいた。それも習慣的に。
それで健康に害はない様子だった。
私の家庭では念のため一度冷凍していると彼には伝えておいた。Costcoのパッケージは大きいから、保存にも都合が良いと。
マイナス20℃以下で24時間以上の条件に晒すと、アニサキスは死滅するらしい。
公益社団法人日本食品衛生協会
http://www.n-shokuei.jp/eisei/sfs_index_s12.html
日本より安価
以下のサイトで、サーモン刺身を安く食べる方法を紹介している。(日本で)
https://0822kiseki.com/2016/03/13/post-8255/
それによると250円/100gだから
35.71ドル/kg(1ドル70円)
となり、シーフード天国であるはずの日本価格の方が高くなる。(現在の為替レートなら)
つまりCostcoサーモンは極めて価格競争力が高い。
年会費60ドルかかるが、これは払う価値があると思う。サーモン以外にもいろいろお得なものがある。
住所を同じであるパートナーには会員証がもう一枚与えられるから、きっとフラットメイトでも大丈夫なはずだ。(もちろん住所を証明するID等は必要になる。)
シェアハウスに住んでいるワーホリの人にこそお勧めする。Costcoではどの食材も一単位が大きいが、シェアすれば生活費が抑えられ、食生活も豊かになる。
https://www.costco.com.au/member-care/membership/how-to-sign-up-for-a-gold-star-membership
味
刺身、炙り、寿司、サーモン・アボカド丼、麹漬け 等にして生食できる。
もちろん火を通しても良い。
どれも普通に美味しいと思う。
人体実験
今回の記事を書くにあたり、2年近くの試験期間を要した。
私の家族はCostcoサーモンを生食しているが、健康を維持している。
前述の公益社団法人日本食品衛生協会によると、食中毒の症状はすぐ現れるようだ。
「アニサキスが寄生した生魚を食べてから、通常は、2~8時間後に起きます(胃アニサキス症)。まれに10時間以上過ぎてから起きます(腸アニサキス症)。」
だから、長い潜伏期間があって将来問題が生じるというわけではない。
「実践するときは自己責任で」などと最後にお茶を濁す気は毛頭ない。
もしもの時の治療費は私が責任を持って払うから、安価で美味しいサーモンを刺身にしてどんどん食べて欲しい。
不動産5軒持っている人は金持ちか?
オーストラリアに不動産を5軒も持っている人――そう聞いてどんな人を思い浮かべるだろうか?
きっと、とんでもない富裕層に違いない。
オーストラリアに移住して来た頃の私はウブだったので、そんな風に思っていた。
しかしその後、オーストラリアというゲームのやり方を急速に学び、彼らの生態を知るようになった今では、実は彼らは落ち着いた富裕層というより破天荒な人たちで、それでいて庶民と同じように経済的な不安を抱えていることが分かった。
最高で最悪のタイミング
年始に会った友人は、不動産市場が悪化するのを恐れていた。
シドニーの不動産がピークだった2017年頃に自宅を買ったからだ。
「売ったのは最高のタイミングだったけど、買ったのは最悪のタイミングだった」
彼女は自嘲した。
投資物件を売って得たキャピタルゲインを頭金にして自宅購入に踏み切ったのだった。
そのとき私は止めた。彼女の上司も止めたと聞いている。
「市場が悪化しなかったとしても、ローンの金利が上がったらわたしは終わる」
彼女は弱気になっていた。
私はあのとき、もっと強く止めるべきだっただろうか。
いや、聞く耳持ってくれなかっただろう。そもそも人の決断に口出しなんてできない。
Missメルセデス
友人「ねー覚えてる? 一年前、一緒にMaroubra Beachに行った子」
私「もちろん」
その女性はメルセデスに乗って颯爽と現れた。
実のところ私はそれを予感していた。というのも、「中国人の友達が合流する」と聞いていたからだ。
私の周りにいた中国人は、メルセデスかアウディかBMWを標準装備していた。
だから、「やっぱりね」と思ったわけだ。
(しかしそのメルセデスは後部座席のドアが内側からは開けられないという奇妙な故障の仕方をしていた。私は後部座席に座らせてもらったのだが降りるときは誰かが外から開けなければならなかった。)
不動産5軒持っている人の胸中
友人「あの子いま、不動産を売ろうとしてるんだけど、どれも全然売れないって」
私「どれもって、彼女、何軒持ってるの?」
友人「5軒」
私「ご、5軒!」
聞けばそのうち数軒は最近――つまりピーク付近で買ったとのことだ。詳しいことは分からないがシドニー周辺と思われる。
友人「彼女が言うには2020年は不況が来るそうなのよ。そんな記事が幾つも出てるって。だからその前に売ってしまいたいって」
私の友人がやたらと弱気になっていたのはそれに影響されてのことだった。
MissメルセデスはCommonwealth Bankに勤めていて頭が良いから、彼女の言っていることはあてになると言うのである。
「あの時期に何軒も不動産買うなんて頭良いか?」と私は突っ込みたかったが堪えた。
不動産5軒のカラクリ
ともかく私はピンと来た。ああ、そっちのタイプかと。
例えば不動産を一軒、90%の借り入れで購入した場合のBalance Sheetは以下のようになる。
Asset = Property価格
Liability = Home Loan(ローンの総額)
Equity = Deposit(頭金)
Equityのみが実質的な自分の資産で、純資産と呼んだりもする。
↓ 運よく不動産の評価額が10%値上がると、Assetが増えるから、Equityも同じ分だけ増える。そしてHome LoanのAssetに対する割合は減る。
このEquity増加分を頭金とみなして銀行から再度借り入れすることができる。これをRefinanceと呼ぶ。
↓ そうやって新たに物件を購入するとBalance Sheetはさらに大きくなる。
↓ これを繰り返して行くと、Balance Sheetはとんでもなく大きくなって行く。
さて、仮に市場環境が悪化して評価額が下がるとどうなるか?
↓ Balance Sheet的にはこうだ。
不動産を買うとOwnerと呼ばれるが、借金している限り、真のOwnerは銀行だ。
こうなってしまうと、名義は自分でも、実質何も所有していないことになる。
責任だけを背負い込むことになるのである。
注)以上は単純化したモデルで、実際に不動産を追加していく際にはStamp Duty(印紙税)やその他の経費がかかるし、途中で銀行が貸してくれなくなるだろう。
Rental Yield
およそ1年前のデータだが、シドニーのRental Yield(Ownerが得る利回り)は以下のようになっている。
House 3.32%
Unit 3.97%
https://www.domain.com.au/news/rental-yields-on-the-rise-across-capital-cities-domain-data-817849/
これはGrossの値で
Rental Yield (Gross)
= 家賃収入1年分/物件購入価格
であり、諸経費を含めた場合はNetだ。(それは人によるから統計結果は出せない。)
Rental Yield (Net)
=(家賃収入1年分 - ローン - 諸経費)/物件購入価格
投資の成績をより厳密に分析したければ、Stamp Dutyや購入時の経費も加えるべきだろう。
シドニーやメルボルンは物件価格が高すぎるから、Rental Yieldは自ずと低くなり、Netは雀の涙ほどになる。(昔、安いときに買っていれば逆に物凄く高い。)
さらに言うと、TaxとDepreciation(減価償却)が絡んで税引き後利益は多少改善する場合があるが、複雑になるからここでは省略する。
Negative Gearing
NetのRental Yieldが低すぎると、マイナスになってしまう。
その状況、または、マイナス分を他の収入と相殺して課税所得を減らすことをNegative Gearingと呼ぶ。
驚くべきことに、マイナスになると分かっていながら敢えてそういった物件を買う人がいる。
さらに驚くべきことに、「金持ちはNegative Gearingで旨い汁を吸いやがって」と批判する人がいて、Negative Gearingによる課税所得圧縮を廃止にするかどうかで揉めていた。
もっと驚くべきことに、それを廃止すればHousing Affordabilityが改善する(家が安くなる)だとか、行き過ぎて不動産市場がCrashするなどという人もいた。
私はかなり長い間、Negative Gearingの意味が分からなかった。
もちろん、定義は分かる。(まだ分かってなかったりして。)
だが、敢えてそれをやったり、ズルいと言う人がいるのが訳分からなかった。
「私の知らない何かお得なことがあるのか?」ずっとそう思っていた。
だがあるとき、そういった議論は全て、「不動産は未来永劫右肩上がり」を前提としている――と考えればいろいろ辻褄が合うということに気付いた。
やはり彼らは常軌を逸している。
私はそんな神話知らない。
狼狽売り
不動産市場が悪化したとしても、NetのRental Yieldがそこそこあれば、心理的には追い込まれない。
家賃収入があるから儲かっているわけだし、何年か経てばまた不動産価格が復活するかもしれない。
しかし、Rental Yieldが低すぎたりマイナスだったりすると何のための投資か分からなくなる。
だから損害が大きくならないうちに売却しようとする。
恐らくMissメルセデスは、購入価格より数万ドル高く売ろうとしていたのではないだろうか。
さもなければ、Stamp Dutyや諸経費の分(数万ドル)損してしまうから。
不動産5軒持っている人の生態まとめ
人知を超えた存在に畏敬の念を持つ彼らは、自分ではコントロールできないこと――不動産市場や金利の上がり下がり――に敢えて全財産を委ね、それらのアップダウンに翻弄されるという痺れるような今を生きている。
宵越しの金は持たぬという無頼派で、見栄を張ることを浅ましいと忌み嫌う。車は単なる移動手段だから走りさえすれば良く、故障した部位があっても絶対に修理に出したりしない。
注)もちろん別のタイプの「不動産5軒持っている人」もいるだろう。価格上昇の含み益が莫大で、今さらちょっとくらい値下がりしてもヒリヒリした痛みなどとは無縁であり、定期的に入って来る家賃収入は一般人の労働収入を優に超えている。全てが予定調和(Under Control )で、もはや生の実感を持てないタイプである。
ど素人でも不動産投資で勝てる理由
シドニーの温暖な気候は屋外で食事をするのに向いている。
シドニーで働いていたとき、しばしば私は、弁当を持って外に出たものだ。
小春日和の気持ちのいい日だった。
職場近くの小さな公園にはジャカランダの紫色の花が咲き乱れ、テーブルに木陰を作っていた。
そんな幻想的な景色を私一人で独占できるわけがない。
そのテーブルには近隣の会社からやって来た人たち数名が同席していた。
私は難解な金融理論が書かれた本を開き、弁当を食べながら、同席者たちの会話を聞くともなく聞いていた。
彼らは投資について話しているようだった。
見知らぬおばさん「株価って毎日上がったり下がったりするでしょ? 私それ見るの嫌になっちゃった。それでね、これからは不動産投資することに決めたのよ」
周りの人「それはいいアイデアだねー」
ここにもおかしなこと言っちゃってる人がいる! 横で聞きながら私はそう思ったものだ。
そのときの私の考えはこうだった。
オークションで不動産売買する場合、当日、蓋を開けるまで誰にもその結果は分からない。
940,000ドルで決着するかもしれないし、もう一声あがって950,000ドルになるかもしれない。そこから火が着いて1,000,000ドルまで行くかもしれない。
その日の参加者や雰囲気次第で値段は幾らでも変わる――だからこそオークションをやるのだ――ということは誰もが同意するだろう。
しかしながらその物件の本来の価値は同じはずである。
単に日々の値動きが見えないだけで、不動産だってボラティリティは高いのだ!
株だろうが不動産だろうが価格の上がり下がりがあることに違いはない…
こんな天然な連中に負けてたまるか!
私は彼らの会話を耳から遮断し、小難しい金融理論の本に集中しようとした。
そのときである。
突風が吹いてその分厚い本を吹き飛ばしたのだ。
シドニーはwindyな日が多いが、その風は少し奇妙だった。
気のせいだろうか。周りのジャカランダの花は揺れなかったような…
飛ばされた本を追い、私は席を離れた。
そして本を拾い上げてテーブルの方を振り返ると、そこにはもう誰もいなかったのである。
昼休みが終わるから急いで帰ったのか?
それにしては早業すぎる。
だとしたら、あれは幻だったのか?
投資に向いてる人 ― Fidelityの調査
Fidelityが顧客の投資成績を調べて判明した興味深い知見がある。(2003年~2013年、株や投資信託などについてと思われる。)
投資の成績が良かった人の属性1位は「すでに死んでいる人」で、2位は「運用しているのを忘れている人」だ。
この結果は示唆に富む。
つまりこれは、「余計な売買をするな」、「値動きを見て一喜一憂するな」ということを意味している。
株式投資やFXをやったことがある人なら分かると思うが、これらは簡単なようでいて、いざ実践するとなると難しいものだ。
逆に言うと、それらのことを自動的に実践できる投資なら、素人でも勝てる可能性は高いのである。
不動産の特性
株と比較した不動産の特性は次の二つだろう。
①日々の値動きが見えない
②流動性が低い
①については前述した通りだ。
私もQLD州に投資物件を持っているが、それが今幾らなのか知らない。
ブリスベン郊外は今年上がるだろうとか、いやそんなに上がらないとかの情報を耳にするくらいだ。
だから「値動きを見て一喜一憂」せずに済む。
②についても誰もが知るところだ。
株ならクリック一つで売買できてしまうが不動産ではそうはいかない。様々な面倒臭い手続きが必要になる。
ところで自宅購入も不動産投資に含まれる。(本人の意図にかかわらず)
家族で満足して住んでいる自宅を、その地域の不動産価格が上がっているらしいと聞いて今すぐ売ろうとする人は少ないだろう。
その家から通学や通勤しているし、売ってみるまで実際幾らで売れるか分からないからだ。
通常、流動性の低さは不動産投資の欠点として挙げられる。
しかしそれこそが、Fidelityの知見を投資家に実践させているのである。
かくして私の頑ななハートは解きほぐされた
私はオーストラリアに移住してから、何人もの不動産長者に会った。
金融リテラシーは最低レベルだが勢いに任せて家を買ったら10年後、その価値が倍増したというパターンの人たちだ。(勝手に決めつけているが)
こんな天然な連中に負けてたまるか! と理論武装に躍起になっていた私に大切な真理を伝えるために、あのおばさんは神が遣わした預言者だったのかもしれない。
あの日以来、凝り固まっていた私のハートは解きほぐされ、不動産カルト信者への嘲笑は親しみへと変わった。そしてついには自分でも不動産投資を始めるに至ったのである。
注)この話は事実を脚色したフィクションです。私は「難解な金融理論」など読んでいませんでしたし、おばさんたちが急にいなくなったりもしませんでした。
Job Hopping はやるべきか?
私はオーストラリアに移住する前、一年近い充電期間を持った。
長期の海外旅行に3回出かけ、その間の期間には図書館やジムに通ったのである。
旅行は憧れのヨーロッパだ。(プラス韓国)
最初にマルタに降り立ったときの太陽が何と眩しかったことか。眼前に広がる地中海の何と碧かったことか。
だが意外なことに、海外旅行よりも図書館とジム通いをしていた時期の方が、充実感があった。
これは朗報だ。
充実した生活を送るのに必ずしも大金は必要ないということになる。
海外旅行もやり過ぎると、感動が薄れるのだ。
Job Hopping
その頃、Evernoteというアプリが便利だと聞き、実際使っていたのだがイマイチ有用性が分からずにいた。
そんな折、渋谷でEvernote主催の講演会が催されるとの通知が来たので行ってみることにした。
そこでのメインイベントとして、ビジネス界のキーパーソン(と言っても知らない人ばかり)によるトークショーがあった。
しかしながら事前の段取りが悪かったのか、トークは全くまとまりのないものだった。
興味深くもなければ、示唆にも富まず。
会場に千人はいたと思うが、千人が盛り上がらないトークを延々聴かされる羽目になった。
また、Evernote関連の言及は一言もなく、そもそもの私の目的――Evernoteの有用な使い方を知る――は終ぞ果たされなかった。
それはさておき登壇者の中に、30歳くらいの女性がいた。
輝かしい経歴を持つ人物として彼女は紹介された。
幾社もの名だたるIT企業に一、二年ずつ在籍していたとのことである。(技術職ではなかった)
それを聞いた私の率直な感想は、「それらの企業で一体どんな実績を残したんだろう?」というものだった。
少なくとも私の職種では、一、二年では中途半端な仕事しかできないからだ。
私は長年働いた企業を辞めたばかりだった。
オーストラリア移住を先送りにし、永住ビザをドブに捨て、十何年もの年月を一つの会社の同じ部署で過ごした…。
今でもときどき思う。
もし最初に永住ビザを取った時、すぐに移住していたらどうなっていただろうと。
恐らく何も考えずに家を買って、偶然、不動産ブームに乗り、自分は投資の天才といい気になっていたのではないだろうか。(どこかで見たような…)
ところで当時は知らなかったが、オーストラリアに来て、短期間で職を転々とすることをJob Hoppingと呼ぶのだと知った。
今になって思うと彼女はまさにJob Hopperに当てはまる。
それで私はJob Hoppingを否定しようとしているのだろうか?
実のところその逆である。
企業の人事は歪みだらけ
オーストラリアでは転職は盛んに行われる。
新卒一括採用なんてものはなく、「即戦力」を重用する。
例えばマーケティング部署に、全くの別業界から人が来ることがある。
これは、「業界の知識」よりも「マーケティングの技術」を重視していることになる。(スティーブ・ジョブズがペプシからマーケティングの専門家を招いたように。)
それで本当に大丈夫なのか? と様子を見ていると、やっぱりダメダメだったりする。
しかしそれは私から見た評価で、どうやら会社側は「それで全然OK」と見ているようだ。
(選考過程ではあんなに人を選り好みするくせに!)
世の中には常に、何かの弾みで過大評価(または過小評価)されているものがある。
映画やレストラン、ブランド、そして何割かの会社員。
そういった例は今いるオーストラリアの会社でも見かける。
「こういうの日本で散々見た」という既視感でいっぱいである。
企業の人事は歪みだらけだ。
過去記事「あなたの給料は妥当か?①」において、労働市場こそ歪みだらけだと述べた。
そういった歪み(不公平)を見るのは気持ちが悪くて仕方ないが、それを個人が是正することはできない。
だったら個人はそれを利用して、過大評価(少なくとも適正評価)を受ける組織・職業を探し続けるべきだ。
『専業主婦は2億円損をする』という本にも同様のことが書かれていた。私は完全に同意する。
「転職を繰り返せば自分に向いた仕事に出合う確率が上がり、スペシャリストとしての経験値も高くなっていきます。これもアメリカの調査ですが、15年以上のキャリアがある管理職で、転職2回のひとが役員になる確率は2%ですが、転職が5回以上だと18%に上がるそうです。転職は“天職”へとつながっているのです。」