実は安いオーストラリアの医療費
謎1
日本の歯医者に言われたことがある。
「あなたなら海外だったらもっと良い歯科治療が受けられますよ」と。
これは何を意味しているのだろうか?
謎2
ネットで「オーストラリア 医療費」を検索すると、「高い」ことを強調する記事と「無料」だからラッキー♪という記事の、両極端の結果が出る。
なぜそうなるのか?
謎2の答えは簡単だ。
高い、無料、いずれの主張も医療保険を負担している自覚がないからだ。
一方で、「海外なら日本以上の歯科治療が受けられる」という謎1はやや複雑だ。
しかし実はこれも、医療保険と関連しているのである。
天然すぎる同僚
私の同僚に在豪歴20数年という人物がいる。
あるとき彼女が「オーストラリアでは医療は無料」と発言したことがあった。
話の流れはこうだ。
同僚「日本に帰省したとき医者には行けるの?」
私「行けるけど、保険料を払ってないから高くつくだろうね」
同僚「へーそうなんだ。オーストラリアだったら医療は無料なのにね」
私は突っ込まずにはいられなかった。
私「いやいや、無料じゃないよ!」
同僚「なんで?」
私「収入の2%以上、保険料を払ってる」
同僚「私はそんなの払ってないわよ!?」
私「絶対払ってるって!」
私は衝撃を受けた。
この人、なんて天然なんだろう! と。
一方の私はと言えば、どうやって税金(医療保険料含む)を減らすかで日々、頭を悩ませていたからだ。
彼女の鷹揚さに比べて、私はなんて、みみっちいことを気にしていたのだろう!
公的医療保険 日本 vs オーストラリア
オーストラリアと日本の公的医療保険料を比較した図を示す。
データ出所
単身、扶養家族なしでの比較。いつも通り 1豪ドル=80円 の計算。
例えば、
年収400万円では、オーストラリアの方が年間12万円以上安い。
年収600万円では、オーストラリアの方が年間19万円以上安い。
年収800万円では、オーストラリアの方が年間24万円以上安い。
(オーストラリアの方が所得水準が高いのだからずらして比べても可。)
日本の方が多く保険料を支払っているにもかかわらず、医者にかかると三割負担である。
一方、オーストラリアでGPにかかっても(ほぼ)支払い不要だ。
過去記事「救急病院の便利な使い方 in オーストラリア」で書いた通り、酷い頭痛で三日連続GPに通ってMRI検査してもらったときも支払い不要だったし、救急病院も支払い不要だった。
よってオーストラリアの医療費は安いのである。
「ちょっと待てぃ! 専門医はバカ高いだろうが!」
とツッコミが入りそうだ。
実際その通りだが、そのために民間保険がある。
値段はピンキリだが、無駄に手厚すぎる保険に入らない限り、日本とオーストラリアの差額を埋めるのは難しいだろう。
つまりトータルではオーストラリアの方が安いという結論は変わらない。
ところでグラフにおいて、オーストラリアは750万円のところから急に保険料が上がっている。
高所得者は入院の保障が付いた民間保険に加入していないとMedicare(公的保険)が高くなるからだ。
- 約750万円までは所得の2%
- 約750万円からは徐々に上がり、最大、所得の3.5%
逆に、入院保険付帯の民間保険に入ればMedicareの値上がりは防げる(所得の2%が維持される。)
ちなみに所得750万円なら安い入院保険は8万円くらいだ。
運悪く、安い民間保険ではカバーできない病気になることもあるかもしれない。
しかし、ほとんどの場合においてオーストラリアの方が有利なのだ。
だから、「オーストラリアの医療費は高い!」などと騒ぎ立ててはいけないのである。
オーストラリアの歯医者は高いか?
さて、冒頭における日本の歯医者の発言「あなたなら海外だったらもっと良い歯科治療が受けられる」とはどういう意味だったのだろう?
ここで「あなたなら」というのは、「普通に収入があり公的医療保険を負担している人なら」という意味である。
すなわち歯医者の含むところは、
「日本では法外な公的医療保険を払っていても三割負担しなければならず、あげくにしょぼい歯科治療しか受けられない」ということだ。
分かり易い例としては、クラウンと呼ばれる奥歯の被せ物だ。
保険治療だと、銀歯しか入れてもらえない。(最近になって一部改善されたが。)
あれほど高い保険料を払い、三割負担してこのザマである。
オーストラリアのMedicareでは歯科治療はカバーされないが、そもそも負担が少ない。
運悪く歯医者での出費がかさむ年もあるかもしれないが、それは毎年起こる訳ではない。
長期的な医療費は決して高くならないだろう。
あるいは、しょっちゅう歯医者のお世話になる人は、奮発して手厚い民間保険を組み合わせておけば良い。
日本のサラリーマンの医療費負担はまだ上がる?
過去、日本のサラリーマンの社会保険料は問答無用でどんどん上がって行った。
最近のニュースによると、来る超高齢化社会の医療費増に備えて、医師会が「サラリーマンの医療保険負担増」を提案したらしい。
消費増税を騒ぐ前にこっちを騒ぐべきだろう。