オーストラリアの超効率的な内覧会
シドニーに住んでいたとき、賃貸物件を内覧(インスペクション)するのが土曜日お決まりのアクティビティだった。
借りるつもりもないのに、冷やかしで見に行くのである。
(思わぬ効用だが、これによって物件を見る目が養われた。)
オーストラリアで賃貸物件を内覧する手順は日本のそれとだいぶ違う。
オーストラリアでは、まず、日時の指定がある。(大抵は土曜の午前)
例えば物件Aは
6月15日 土曜日 9:00~9:15
物件Bは
6月15日 土曜日 9:30~9:45
というふうに。
この場合、物件Aと物件Bが近くにあれば両方見に行けるわけだ。
ここで注目して欲しいのは、時間が15分しかないということだ。
不動産エージェントは指定の時間にしかそこにいない。
彼らは物件Aが終わったら物件B、Bが終わったらCというふうに移動する。
またオーストラリアで特徴的なのは、この内覧会(インスペクション)は、まだ住人が住んでいる状態で行われるところだ。
だから極端な状況を言えば、
現在の住人が一家団欒で食事中に、不特定多数の他人が土足で家に上がり込んでジロジロ見て回る、ということもあり得るのである。
(オーストラリアでは家の中でも大抵土足だ。)
あるとき私は驚愕の事態に遭遇した。
驚愕のインスペクション
とある物件の内覧に100人以上が押しかけたのである。
これは誇張でなく、本当に110人~120人いた。
私はちゃんと数えたのだ。
確か新しめの2ベッドルームで週700ドルくらいだったと思う。
価格と立地が、多くの人にとって魅力的であったようだ。
100人以上からなる群衆は我先になだれ込み、土足で荒らし回った後に部屋に残ったのはボロボロになった絨毯だった…
というのは冗談だが、興味深いことにそこでは即興のオークションが始まっていた。
不動産エージェントを囲み、
「わたしは720ドル出す」
「それならオレは740ドル出す」
という具合に、広告に出ていた家賃は需要と供給の法則によって吊り上がって行ったのである。
さて私が話をどこへ持って行きたいかもうお分かりであろう。
奇跡の労働生産性
くどいようだが、これこそが、「労働生産性が高い」状態である。(前回参照)
需要さえあれば、その不動産エージェントがいかに無能で怠惰で使えなくても、高い売り上げ(利益)を達成できるのである。
需要さえあれば、その不動産エージェントがいかに無能で怠惰で使えなくても、雇い主はある程度の給料を支払えるのである。
あのとき居合わせたエージェントは、日本で一番有能な不動産屋さんよりも仕事の効率が良かったかもしれない。