リクルーターにとってあなたは駒でしかない
経験豊富なリクルーターは一つのレジュメ(CV)を数秒見ただけで判断する―
何かの記事で読んだことがある。
(日本では企業の採用担当者をリクルーター、転職時の仲介者を転職エージェントと呼ぶらしいが、ここではオーストラリア流に転職の仲介者をリクルーターと呼ぶことにする。)
私はオーストラリアで二度就職活動をし、二つの会社で働いたことがあるからリクルーターについて少しは語ってもいいだろう。
リクルーターの顧客は企業
冒頭の文言を繰り返す。
経験豊富なリクルーターは一つのレジュメ(CV)を数秒見ただけで判断する―
さも有能でかっこよさそうだが、私に言わせれば、これはただの怠慢にすぎない。
彼らは毎日、年がら年中、膨大な数のレジュメ(CV)を受け取るから、一つ一つにかまっていられないわけである。
その作業にうんざりしているのである。
彼らにとって、顧客は企業だ。
推薦した人物の採用が決定したら、企業からお金を貰う。
だからその企業の将来の成長のために、良心に基づいて可能な限り有能な人材を選ぼうとしている…
わけではなく、人身売買さながらのその取り引きが首尾よく運ぶような、無難な人物を選ぶのである。
応募しても応募しても返信なし
無難な人材とは誰か?
少なくとも移民でないことは確かだ。
すなわちこの選考方法は、移民にとって、特にアジア系移民にとってこの上なく不利になるのだ。
Apply, Apply, No Replyという見出しの記事を見かけたことがある。
人材が不足している分野の移民を受け入れるためのビザ――技術独立ビザを取得して移住してきたものの、応募しても応募しても返事が貰えない、終いにはもう就職を諦めたといった内容だ。
せっかくの人材を無駄にしている、オーストラリアのために人材をもっと有効に使うべきだ――記事はそう締めくくっていた。
しかしリクルーターは稼ぐために数をこなさなければならないから、どこの馬の骨とも分からない人物との面談に時間をかけるよりも、やはり無難なところで手を打つだろう。
だから移民はいつまで経っても不利なままだ。
(これはしかし、過去の移民人材が大したことなかった、あるいはローカル人材と“どっこいどっこい”だったということを示唆する。もし軒並み技術系移民の能力が圧倒的だったら、さすがに企業も移民に目を向けるだろう。)
私が会ったリクルーター
ある特定の業界に特化したリクルート会社というものがある。
例えばIT、医薬、といったように。
就職活動中、私の専門分野に特化したリクルーターに呼ばれて会いに行ったことがある。(複数名)
そこで知ったこと、それは彼らがその業界について何も知らないということだった。
製品開発から発売までの流れを説明する私に対し、彼らは毎度ひたすら感心して聴いていた。
確実に、その時初めて聴いたふうだった。
そのときまで私は、彼らはその特化した分野の仕事内容に詳しく、その知識に基づいて応募者を選定しているのだと思っていた。
実際の彼らは単に、その業界の企業にツテがあり、採用時のプロセスを知っているというだけのことだった。
レジュメ早見のカラクリ
では彼らがレジュメの何を見ているのか?
それは企業の募集要項にある単語が、レジュメの中にあるかどうかということだ。
数秒で終わると言われるその作業は、単語と単語をマッチングさせる作業だったのだ。
(例えばExcelとExcelとか)
このように、今日もリクルーターたちはできる限り無難な人材を可及的速やかに見つけるべく、AIさながらのスピードでレジュメをめくるのである。